せいうちセキュリティ

研究論文からサイバー犯罪とセキュリティを考えてみる

【論文考察】なぜ「フェイクニュース」という言葉を使わないほうがいいのか

今回は、ユネスコが2018年に発効したフェイクニュースに関するハンドブックから一部を取り上げます。ChatGPTが大衆の注目を集めています。このタイミングでフェイクニュースに対する理解を一段階深めておきましょう。

"Thinking about ‘information disorder’: formats of misinformation, disinformation, and mal-information" from : Journalism, ‘Fake News’ & Disinformation. UNESCO. 2018
by Claire Wardle and Hossein Derakhshan

 

 

どんな人におすすめ?

『一対多』で情報発信をよく行う人向けの論文です。特に、組織を代表してメッセージを発信する役割の人。ジャーナリストはもちろんのこと、民間組織の広報・マーケティングブランディング担当者で、ブログやSNS、メールマーケティングなどをしている人は知っておかないと怖い内容です。自戒の念を込めて執筆。

マーケティング関係の仕事をしている人たちは、相手の興味関心を惹きたいと強く思っており、役割的にもそう思ってしかるべきです。ただし、気を付けないと炎上したり、気づかないうちにゆっくりと信頼を失ったりします。そうならないためにも知っておきましょう。知は力なり。

 

どんな内容?

フェイクニュース」という言葉が出てきたら、①Misinformation(誤報)、②Disinformation(偽情報)、③Malinformation(不正情報)に分割して考えよう、という話です。日本だとあまり浸透していない考え方ですが、世界的にはかなり重要視されています。アメリカだとCISAのこのページとか。

www.cisa.gov

フェイクニュースと聞くと思い浮かべがちなのが「AIで作った有名人の偽動画」だったり「ツイッターで流れてきた事実とは異なる偽ニュース」だったりしますが、実はもっと複雑です。というか、見落とされるポイントがあります。それを見落とさないようになる考え方が「MDM (Mis- Dis- Mal-) information」です。整理しましょう。

  1. Misinformation(誤報…事実とは異なるけれども、発信者は真実だと信じている情報のことです。勘違いや思い込みが含まれます。たいていの場合、発信者はよかれと思って情報を拡散しています。災害時などにSNSで散見されます。
  2. Disinformation(偽情報)…発信者がそれを事実とは異なると知ったうえで流す情報のことです。これは意図的に嘘を流しているということなので、発信者に悪意があるとみなします。本物っぽいウソ動画なんかはまさにコレです。
  3. Malinformation(不正情報)…事実に基づいているものの、個人や組織に損害を与えたり、文脈を無視して利用される情報のことです。これは具体的なイメージつきにくいかもしれませんが、何の正当性もなく個人の性的指向を明らかにする文書は不正情報です。YouTubeによくあがってる切り抜き動画なんかも、文脈を無視して誤解を招く表現になっていると不正情報と言えます。ただ、何をもって不正とするかが面倒なところです。

巷でよく使われるフェイクニュースという言葉は、上の1と2が混同されています。事実と異なる情報であればマルっとフェイクニュースとなっちゃってる。そうするとMalinformationを見逃します。下の図がわかりやすいです。「事実か偽か」と「悪意があるかないか」の二軸で考える癖をつけておきましょう。

Information disorder(引用元:https://en.unesco.org/sites/default/files/f._jfnd_handbook_module_2.pdf

 

注目ポイント

以下のコミュニケーション形態に触れる時には特に注意しましょう。従来の『フェイクニュース』の定義ではカバーされていないかもしれません。

Satire/ParodySNSから情報を得ることが多くなった今、風刺的なコンテンツだと理解されずに拡散される可能性があります。

False connection…見出しや画像がコンテンツを示すものではないものです。よくあるのは釣りサムネとか。これはマーケティングでもやりがち。

Misleading content…誤解を与えるような表現をすることです。。例えば、コメントを事実のように書くことがそれにあたります。

False context…正しい情報が誤った文脈でシェアされることです。元情報が事実なのでタチが悪いです。発信者の言いたいことのために元情報が切り取って使われたりします。情報を簡単に手に入れたい人ほど引っかかりがち。

Manipulated content…本来よりも刺激的なタイトルにするなどして情報を歪めることです。これはマジで気をつけるべし。全体の一部を過剰に強調することも嘘の一種です。

Fabricated content…完全に捏造されたものです。コラージュコンテンツとか。

 

感想

バズワードを細分化して考えることって大事だなと改めて思いました。フェイクニュースという言葉は特に政治的に利用されがちです。権力者が好まない報道を弱体化させる手段として重宝されます。なんか都合の悪い情報が出たら『これはフェイクニュースだ!』と言ったもん勝ちみたいなところがあります。だから、フェイクニュースという言葉でひとくくりにせずに、情報の質をキチンと捉ることが大事なんですね。

情報操作は国家間争いでも鍵となる活動なので、国民としてもMDM-Information(特に不正情報)についての感度をあげていくべきタイミングだと思います。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。ではまた次回。

 

おわり

 

※ 論文からの引用は発行元の規則に則っています。